住宅は「一生に一度の買い物」と言われることからわかるように、かなり高額です。そのため、住宅ローンを組むのが一般的です。それでも夫婦だけの収入では賄いきれず、両親や祖父母などから援助を受けることも少なくないでしょう。
不動産流通経営協会が行った「不動産流通業に関する消費者動向調査」によれば、新築住宅を購入する際に受けた親からの贈与の平均額は915万8千円でした。贈与はとてもありがたいものですが、税金面で対策なしに贈与をするとかなり高額な贈与税が徴収されてしまいます。
本記事では贈与税のだいたいの内容や贈与とみなされるケース、親から住宅ローンの支払いを支援してもらう方法、贈与を受ける際の注意点などについて解説します。
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贈与税とは
贈与とは金品を人に贈ることを意味する言葉です。民法549条には「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」と定められています。この贈与が行われたときに発生するのが贈与税です。
贈与税の内容についてもう少し詳しく見てみましょう。
贈与税はどんな税?
国税庁の公式サイトを見ると、贈与税は以下のように説明されています。
「贈与税は、個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金」
出典:国税庁
贈与税は1月1日から12月31日までに発生した贈与に対して発生する税金で、財産を受け取った人が税務署に申告・納付しなければなりません。申告や納付が遅れてしまうと申告漏れや脱税とみなされペナルティが課されます。
しかし、全ての贈与が対象となるわけではありません。非課税枠や特例が設けられているため、支払い義務が発生しないことも珍しくないからです。
ある人から別の人に財産を譲る形として贈与・相続・遺贈があります。それぞれの違いを整理します。
内容 | 税金 | |
相続 | 財産を持っている人が亡くなったときに発生 親族が財産を受け継ぐ | 相続税 |
遺贈 | 遺言で財産を他人に与える 受取人は誰でもよい | 相続税 |
贈与 | 財産を持った人が生きているうちに行う 契約に基づき財産を無償で与える 受取人は誰でもよい | 贈与税 |
課税対象
贈与税の課税対象となるのはどのようなものなのでしょうか。課税されるものと非課税のものを例示します。
課税されるもの
以下の事例に当てはまる場合、確定申告などとは別に贈与税の申告や納税をしなければなりません。
- 年間110万円を超える贈与
- 生命保険や損害保険の満期保険金(掛金負担者以外が受け取った場合)
- 親族による負債の免除
- 親から多額の金銭を無利息・無催促・ある時払いなどの条件で借りた
- 自家よりもはるかに安い価格で財産を譲られた
上記の条件に当てはまる場合は贈与税の対象となりますが、詳しい条件などについては税理士に相談してください。
非課税のもの
以下のものは非課税です。
- 年間110万円以下の贈与
- 法人からの贈与
- 夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費として受け取った財産
- 宗教団体や慈善団体、学術団体への贈与
- 見舞金や香典
- 亡くなる前7年以内に受けた贈与
- 教育資金や子育て資金などの一括贈与
- 住宅資金等の特例による贈与
贈与税がかからない財産については、国税庁でより詳細に例示しているため、詳しく知りたい方は国税庁の公式サイトをご覧になるか税理士に相談してください。
課税方式
贈与税の課税方式は以下の2つのタイプがあります。
- 暦年課税
- 相続時精算課税
それぞれの課税方法について詳しく見てみましょう。
暦年課税
暦年課税とは、1年間に贈与された財産の合計額から基礎控除額(110万円)を差し引いた額に税率を乗じて課税する方式です。
暦年税率は10〜55%で、課税対象期間は1月1日から12月31日までの1年間です。
基礎控除額である110万円以下の贈与は課税されませんが、110万円を超えた分については税務署に申告し、贈与税を納税しなければなりません。
贈与額は、もらった人の金額で計算されます。
たとえば、父から100万円、母から50万円を贈与された場合、その人は合計150万円の贈与を受けたことになるため、110万円を超えた分、すなわち40万円が課税対象となります。
一方、母が長男と次男に100万円ずつ贈与した場合、長男も次男も贈与をもらった金額は100万円以下であるため、贈与税はかかりません。
暦年課税の税率については、この後詳しく解説します。
相続時精算課税
相続時精算課税とは、60歳以上の祖父母や父母から18歳以上の子や孫に財産を贈与する際に選べる制度のことです。
こちらを選択すると、もらった財産が2,500万円を超えた段階で贈与税を支払わなければなりません。
ただし、相続時精算課税を選択しても110万円分までは贈与税が免除されますが、110万円を超えると相続税の対象となるため注意が必要です。
贈与税の税額
贈与税の税率には以下の2つのパターンがあります。
- 特例税率
- 一般税率
特例税率は両親や祖父母が18歳以上の子や孫に財産を送る際に適用される税率で、それ以外の場合は一般税率が適用されます。今回は親や子による贈与をテーマとしているの特例税率について解説します。
【特例税率の早見表】
基礎控除後の課税額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
出典:国税庁
計算式は
[基礎控除後の課税価格] × 税率 − 控除額 = 税額
となります。
たとえば、父が子に500万円の財産を贈与した場合は以下のとおりです。
(500-110)×0.15(15%)-10=48.5
500万円から基礎控除額の110万円を引いた390万円に税率15%がかけられ、そこからさらに10万円差し引かれた48万5千円が贈与税額となります。
同様の計算を贈与の平均額である900万円で試算すると、
(900-110)×0.3-90=147
となり、147万円の贈与税が課せられます。
計算方法についても国税庁の公式サイトに具体例が掲載されていますので、そちらも併せてご確認ください。
贈与とみなされるケース
贈与税に関しては誤解が多く、「大丈夫」と思っていたものが課税対象となったり申告漏れとして指摘されたりするケースが目立ちます。
どのようなケースが贈与対象とみなされるのでしょうか。
- 年間110万円を超える贈与
- 親から多額の資金をあいまいな条件で借りる
- 親が保有する不動産を安価で譲り受ける
- 親の生命保険金を受け取る
上記の3つの例について解説します。
年間110万円を超える贈与
1つ目は年間の贈与額が110万円を超えるケースです。
祖父母から孫、父母から子への贈与などからの贈与であれば特例税率、兄弟間や夫婦間、親から未成年の子への贈与などであれば一般税率が課せられます。
親から多額の資金をあいまいな条件で借りる
親子間の金銭の貸し借りも贈与とみなされることがあります。
契約書を作成していなかったり、利率や返済期限が決められていなかったりする貸し借りの場合、事実上の贈与とみなされて課税されるかもしれません。
親が保有する不動産を安価で譲り受ける
親が土地などの不動産を保有している場合、その不動産を実際の相場よりも著しく低い価格で売却したり、同意のうえで無償で譲り受けると贈与があったと判断される可能性があります。
その場合、不動産などの資産の時価と支払った金額の差額(金銭の支払いがなければ資産の時価額)が贈与とみなされ、課税対象となります。
親の生命保険金を受け取る
保険料を親が支払っていた生命保険金が満期や解約となった際、親以外の被保険者がなくなるなどしたことで子が受け取った場合、親からの贈与とみなされることがあります。
住宅ローンを組む際に親から支援してもらう方法
財産の譲り方次第で、贈与とみなされるケースが意外と多いことがわかりました。
制度の範囲内で贈与税を節税しつつ、親から住宅ローンの支援をしてもらうことはできるのでしょうか。
以下の2つの方法を取り上げます。
- 毎年110万円以内で贈与を受ける
- 住宅資金贈与の特例を利用し借入額を減らす
それぞれの方法の詳細を見てみましょう。
毎年110万円以内で贈与を受ける
1つ目の方法は贈与を受ける金額は年額110万円以内に抑え、住宅ローンの支払いにあてる方法です。
暦年課税を適用した場合、毎年110万円、月額にすると約9万1,000円までの贈与であれば贈与税の対象となりません。
住宅ローンの負担率(年収に占める住宅ローンの年間返済額)は、年収の20〜25%程度に設定するのが理想とされます。
年収500万円の世帯で住宅ローン負担率20%で計算すると、年額で100万円、月額で約8万3,000円となります。
その分を毎年支援してもらえれば、かなり大きな家計の助けとなるでしょう。
地道ではありますが、長期的な家計への負担軽減と考えるとかなり有効な方法だといえます。
住宅取得資金贈与の特例を利用し借入額を減らす
2つ目は住宅取得資金贈与の特例を利用し、まとまった贈与を得ることで借入総額を減らす方法です。
住宅取得資金の特例とは、子どもや孫などの住宅購入を支援するのであれば、贈与税の条件を緩和して最大1,000万円まで非課税とする制度のことです。
住宅資金に関する贈与を受けた人のうち、81.6%が住宅取得資金贈与の特例を利用しています。
家を建てようとする人が30代の場合は8割程度が、40代の場合は9割以上が非課税制度を利用すると回答していることからも、かなり一般的な制度であることがわかります。
非課税となる金額は住宅の質によって異なります。
住宅 | 非課税となる金額 |
省エネ住宅 | 1,000万円 |
それ以外の住宅 | 5,00万円 |
省エネ住宅の特例を受けていれば1,000万円、それ以外の住宅でも500万円の贈与が非課税となるため、親などからの支援を住宅購入の頭金にあてやすくなります。
しかし、先ほど説明したように省エネ住宅の基準を満たすのはかなり厳しいため、新築で家を建てる場合、建てようとする住宅がこれらの基準を満たしているか、ハウスメーカーなどに確認する必要があります。
省エネ住宅の条件
省エネ住宅と認定されるには以下の条件をクリアしなければなりません。
- 断熱等性能等級5以上、かつ一次エネルギー消費量等級6以上
- 耐震等級2以上または免震建築物
- 高齢者等配慮対策等級3以上
条件の詳しい内容を見てみましょう。
断熱等性能等級
住宅の断熱性能を示す等級のことで、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)で定められています。
等級 | 制定年 | 内容 |
等級1 | – | 断熱なし |
等級2 | 1980年 | 低レベルの断熱性能 |
等級3 | 1992年 | 一定レベルの断熱性能 |
等級4 | 1999年 | 壁や天井など開口部に複層ガラスを設置し断熱性能が向上 |
等級5 | 2022年4月 | ZEHの基準を満たす断熱性能 等級4を上回る断熱性能 |
等級6 | 2022年10月 | 高性能住宅 一次エネルギー消費量の削減率30%可能 |
等級7 | 2022年10月 | 高性能住宅 一次エネルギー消費量の削減率40%可能 |
2024年以降に特例を受けるには等級5以上の住宅でなければなりません。
一次エネルギー消費量等級
住宅で一年間に消費するエネルギー量をあらわす等級のことです。
等級4で国が定める省エネ基準を満たし、等級5以上で省エネ基準以上の省エネ性能を有しています。
耐震等級
地震に対する建物の強さを表す等級のことです。
耐震等級1 | 建築基準法の基準を満たす耐震性能 震度5までなら軽微な損傷、震度6でもすぐに倒壊しない |
耐震等級2 | 耐震等級1の1.25倍の耐震性能 長期優良住宅に求められる基準 |
耐震等級3 | 耐震等級1の1.5倍の耐震性能 消防署や警察署に求められる耐震性能 |
特例を受けるには耐震等級2以上でなければなりません。
高齢者等配慮対策等級
等級は全部で5段階あります。
特例の条件となっている等級3は、高齢者が安全に移動することへの配慮や車いす使用者が基本的な生活を行うための基本的な措置を講じている住宅のことです。
親から贈与を受ける際の注意点
親から支援を受ける場合、以下の2点に注意が必要です。
- 住宅ローン控除が受けられなくなる可能性がある
- 住宅資金贈与の特例は直系尊属しか受けられない
なぜ、この2点に注意しなければならないのか、詳しく説明します。
住宅ローン控除が受けられなくなる可能性がある
住宅取得資金贈与の特例を受けても住宅ローン控除を受けることができますが、借入額や特例による贈与の金額によっては、控除が受けられなくなる可能性があります。
住宅ローンの借り入れと特例の贈与額が住宅価格よりも少ない場合、問題なく住宅ローン控除が受けられます。
しかし、住宅ローンの借入額と贈与額の合計が住宅購入価格を上回った場合は、借入額の一部が住宅ローン控除から外れてしまいます。
贈与額が大きくなる場合は、相続時精算課税制度を利用したほうが税負担を抑えられるかもしれません。
また、親からの資金援助により住宅ローンの繰り上げ返済などを行い、返済期間が10年未満となった場合は借入残高が残っていても住宅ローン控除が適用されなくなります。
贈与額の大きさやローンの支払い残高などにより、住宅ローン控除の額が変わってくるため、個別のケースについては税理士など税に関するプロに確認したほうがよいでしょう。
住宅資金贈与の特例は直系尊属しか受けられない
また、特例は直系尊属しか受けられないことにも注意が必要です。
直系尊属とは自分より前の世代で血がつながった直系の親族のことで、父母や祖父母などを指します。
両親の兄弟姉妹(おじ・おば)や配偶者の父母・祖父母は直系尊属ではありません。
つまり、自分の父母や祖父母から受ける贈与であれば特例の対象となりますが、配偶者の父母・祖父母、自分のおじ・めいなどは特例の対象外となります。
まとめ
今回は贈与の仕組みや住宅ローンを組む際に親から支援してもらうための方法、親などから贈与を受ける際の注意点についてまとめました。
贈与税は比較的よく知られた税金ですが、申告時に間違いが多い税金でもあります。
住宅ローンとも密接に絡む税金であるため、ハウスメーカーに任せるだけではなく自分自身でも勉強しておくべき分野といえます。
特に最も利用率が高い住宅取得資金贈与の特例は、贈与を受けた人の8割以上が利用しているメジャーな制度です。
厳しい条件をクリアできれば1,000万円、一般的な住宅でも500万円の贈与が非課税となるため、住宅ローンの総額を減らすのに効果的です。
今回は贈与にポイントを絞ったため紹介しませんでしたが、住宅ローンの利用方法の一つに「親子ペアローン」や「親子リレーローン」があります。
2世帯住宅を建てる場合に有効な住宅ローンの方法ですので、検討する価値はあるでしょう。