住宅購入は高額な資金が必要になることから、親からの援助を検討している方もいるでしょう。
しかし、購入資金の援助を受けると贈与税がかかる可能性があります。
ただし、贈与税には非課税枠があるため、一定の条件を満たせば贈与税負担の軽減が見込めます。
この記事では、住宅購入の資金援助に対する贈与税の基本と非課税枠の概要や適用要件、注意点などを分かりやすく解説します。
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住宅購入の資金援助は贈与税の対象
住宅購入では親から資金援助を受けるケースは珍しくありません。
しかし、援助された資金は贈与税の対象となるので、贈与税について理解しておく必要があります。
ここでは、まず、資金援助に対する贈与税の基本を押さえていきましょう。
贈与税とは?
贈与税とは、無償で財産を譲ってもらった場合に発生する税金です。
1月1日から12月31日までの期間の贈与された財産額に応じて課税され、譲られた側(受贈者)に納税義務があります。
たとえ親子間であっても財産を無償でもらうと贈与税の対象です。
ただし、財産を贈与されれば必ず贈与税が発生するわけではありません。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、年間の贈与額が110万円以内であれば課税されないのです。
一方、年間の贈与額が基礎控除の110万円を超えると、超えた分に対して贈与税の税率で課税されます。
なお、18歳以上の人が父母や祖父母などの直系尊属から贈与を受ける「特例贈与」とそれ以外の「一般贈与」では贈与税の税率が異なるので注意しましょう。
住宅購入の資金援助で贈与税がかかるケース
住宅購入に関して親や親族から援助をもらう場合、以下のようなケースで贈与税が課税されます。
- 資金援助の額が110万円を超える
- 評価額が110万円以上の土地を譲ってもらう
- 土地を相場に対して極端に安い価格で親から購入する
年間の贈与額が基礎控除である110万円を超えると贈与税が課税されます。
たとえば、資金援助額が1,000万円の場合、1,000万円-110万円=890万円が贈与税の対象です。
この際、課税対象は年間の贈与額合計となるため、住宅資金の援助とは別に贈与をもらっているとその総額が対象という点には注意しましょう。
また、贈与税は金銭だけでなく不動産など金銭的価値のあるものです。
土地を譲ってもらった場合でも、その土地の評価額に対して課税されるため、評価額が110万円を超えると贈与税が課税されます。
仮に購入する場合でも、相場に対して極端に安値で購入すると「みなし贈与」として、相場との差額分に贈与税が課税される恐れがあるので注意しましょう。
住宅資金の贈与が非課税になる特例
贈与税にはいくつかの非課税枠が設けられており、適用することで贈与税の節税が可能です。
住宅取得に関する贈与税の非課税枠としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 住宅取得等資金贈与の非課税枠
- 相続時精算課税制度
- 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
相続時精算課税制度とは、住宅取得に関わらず贈与額2,500万円までを非課税にできる制度です。
2,500万円+110万円(基礎控除)を超えた分が贈与税の対象となりますが、非課税となった2,500万円は将来の相続時に相続財産に加算される点に注意しなければなりません。
おしどり贈与とは、一定の要件を満たす夫婦間で居住用不動産または不動産取得の金銭贈与が行われた際に最高2,000万円を控除できる制度です。
夫婦間が対象となるので、親子間では利用できない点には気を付けましょう。
住宅の資金援助で基礎控除の110万円以下に抑えるのは住宅購入の援助としては不十分なケースも多いものです。
とはいえ、相続時精算課税制度は非課税枠が大きいですが、将来の相続税に影響が出るので、適用するかは慎重に検討する必要があります。
ある程度まとまった資金を援助しつつ、相続税にも影響しない非課税枠として活用したいのが「住宅取得等資金贈与の非課税枠」です。
住宅取得等資金贈与の非課税枠については、以下で詳しく解説していきます。
住宅取得等資金贈与の非課税枠とは?
住宅取得等資金贈与の非課税枠とは、直系尊属(父母や祖父母など)から住宅購入や増改築に対する資金援助を受けた場合の非課税枠です。
<h3>最大1,000万円までが非課税になる制度</h3>
住宅取得等資金贈与の非課税枠では、住宅購入または増改築に充てるための金銭を贈与された場合、以下の限度枠までの金額が非課税となります。
- 省エネ等住宅:1,000万円まで
- それ以外の住宅:500万円まで
省エネ等住宅とは、省エネルギー性能や耐震性などの一定の基準に適合する住宅であり、長期優良住宅やZEH住宅などの一定の住宅性能を有する住宅が該当します。
省エネ等住宅に該当する場合、最大1,000万円までが非課税になるのに対し、それ以外の住宅に該当すると非課税枠が小さくなる点には注意しましょう。
なお、非課税枠を適用する場合でも、基礎控除の110万円は併用されます。
最大1,110万円までが非課税にできるため、まとまった資金の贈与を受けても大きな節税が可能です。
節税額のシミュレーション
住宅取得等資金贈与の非課税枠を適用した場合、どれくらいの節税につながるかをみていきましょう。
条件は以下のとおりです。
- 援助額(年間の贈与額):1,500万円
- 親から子どもへの贈与
- 購入した住宅:長期優良住宅
適用しない場合、1,500万円-110万円=1,390万円が贈与税の対象です。
課税額1,390万円の特例贈与では税率が40%、控除額が190万円となるので、贈与税額は以下のようになります。
贈与税の額:1,390万円×40%-190万円=366万円
一方、住宅取得等資金贈与の非課税枠として1,000万円が非課税になる場合、贈与税の額は以下のとおりです。
贈与税の対象:1,500万円-1,000万円-110万円=390万円
贈与税の額:390万円×15%-10万円=48.5万円
適用することで、大きな節税となっているのが分かります。
住宅取得等資金贈与の非課税枠の適用要件と手続き方法
住宅取得等資金贈与の非課税策を適用するには、一定の要件を満たして手続きする必要があります。
ここでは、適用要件や手続き方法についてみていきましょう。
適用要件
非課税枠を適用するには、資金を贈られる人(受贈者)の要件と取得する建物の要件を満たす必要があります。
贈られる人に対する要件
贈られる人に対する主な要件は以下のとおりです。
- 贈与者の直系卑属(受贈者からみて贈与者は直系尊属)である
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
- 贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下(対象家屋が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
- 以前にこの特例を適用していない
親や祖父母からの贈与であることが条件となるので、叔父や兄弟間での贈与は対象外です。
また、配偶者の父母からの贈与も養子縁組していない場合は対象とならない点には注意しましょう。
建物や贈与内容に対する要件
建物や贈与内容関する主な要件は以下のとおりです。
- 配偶者は親族など特別な関係のある人から取得または請負工事契約をしていない
- 日本国内にある住宅用の家屋である
- 新築の場合、床面積40㎡以上240㎡以下かつ床面積の2分の1以上が受贈者の居住用である
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与の金銭をすべて充てて住宅を取得、増改築する
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに入居する
- 中古の場合、1982年1月1日以後に建築されたもの
- 中古の場合、地震に対する安全性に係る基準に適合するもの
親や親族から家を購入する、親族の企業に家を建ててもらう場合は適用対象外です。
また、新築、中古の購入、増改築それぞれで建物や増改築工事の内容が細かく定められています。
詳しい要件は国税庁のホームページに掲載されているので、検討する際にはチェックするようにしましょう。
参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
適用期限
住宅取得等資金贈与の非課税枠は、2026年12月31日までの贈与が対象です。
期限を超えて贈与を受けた場合、適用できない点には注意しましょう。
ただし、もともと2021年末で終了予定だったものが2023年末まで、さらに2026年末までと税制改正により延長されています。
現時点では2026年末以降については公表されていませんが、延長される可能性もあるでしょう。
とはいえ、これまでの改正では期限の延長だけでなく、限度枠の縮小など条件の変更もありました。
仮に、適用期限が延長されても、現行の制度のまま延長されない可能性もある点は覚えておきましょう。
手続き方法
住宅取得等資金贈与の非課税枠を適用するには、税務署に贈与税の申告が必要です。
申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間となります。
期限を超えて申告すると無申告加算税などのペナルティが科せられる恐れがあるので、期限内に申告できるように余裕をもって準備するようにしましょう。
必要書類
申告時に必要な主な書類は以下のとおりです。
- 贈与税の申告書
- 受贈者の戸籍謄本など直系尊属からの贈与であることを証明する書類
- 源泉徴収など所得金額が分かる書類
- 住宅取得の契約書の写しなど住宅取得の条件や要件が分かる書類
- 登記事項証明書
必要な書類はケースによって異なる場合があるので、事前に国税庁のホームページなどで確認するとよいでしょう。
非課税枠を適用するときの注意点
住宅取得等資金贈与の非課税枠を適用する際にはいくつか気をつけたいことがあります。
ここでは、適用するときの注意点をみていきましょう。
基礎控除や相続時精算課税制度との併用が可能
前述のとおり、非課税枠を適用した場合でも、基礎控除である110万円の併用が可能です。
さらに、2,500万円の非課税枠である相続時精算課税制度との併用もできます。
基礎控除と相続時精算課税制度まで併用した場合、非課税枠は最大で110万円+2,500万円+1,000万円=3,610万円と大幅なアップができます。
ただし、相続時精算課税制度は相続税の負担が増える恐れもあるので、適用すべきかはシミュレーションしたうえで検討するようにしましょう
適用で贈与税が課税されなくても確定申告が必要
非課税枠を適用すれば贈与税が課税されないケースもあります。
しかし、課税されないからといって申告が不要になるわけではありません。
非課税枠の適用のために申告が必要となり、申告しなければ非課税枠は適用されていない状態となります。
贈与税を支払わなくてもいい状態になる場合でも、非課税枠を適用する場合は申告が必要なので注意しましょう。
住宅ローン控除の適用額が減る可能性がある
住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合に、年末時点の残高に応じて一定額が所得税・住民税から控除される制度です。
親からの支援+住宅ローンで家を購入した場合、非課税策と住宅ローン控除を併用することはできます。
しかし、住宅ローン控除が適用できる額が減少する可能性がある点には注意しましょう。
具体的には、「年末時点の住宅ローン残高」が「住宅の取得額-非課税贈与額」が上回る場合の、上回った部分は適用の対象外となります。
たとえば、1,000万円の非課税枠を適用し3,000万円の住宅を購入した場合で、年末時点のローン残高が2,500万円の場合、3,000万円-1,000万円=2,000万円となり住宅ローン残高が500万円上回るため、500万円は住宅ローン控除の対象外です。
資金の贈与によって住宅ローン控除のメリットを得にくくなる可能性があるので、シミュレーションしたうえで贈与額や住宅ローン額を検討するとよいでしょう。
贈与以外で親から資金援助を受ける方法
親から資金の援助を受けて住宅を取得すると贈与税の負担が大きくなる恐れがあります。
とはいえ、自己資金と住宅ローンだけでは希望する家が取得できないケースもあるでしょう。
贈与以外で検討できる親からの援助として「借りる」「共有名義にする」といった方法も検討できます。
借りる
資金をもらうのではなく借りるのでれば、贈与には当たらないため、贈与税は発生しません。
親に借りるのであれば、返済期限や利息なども柔軟に設定しやすいのもメリットでしょう。
ただし、親族間での貸し借りは返済についてがあいまいになりやすいものです。
親子間でも返済を巡ってトラブルになる恐れがあるので、返済条件はきちんと話し合い書面にすることをおすすめします。
また、借りたという形だけで返済の事実がない、返済条件が現実的ではないといった場合は贈与とみなされる恐れもあるので注意しましょう。
共有名義にする
取得する住宅を負担した資金の割合で持分を按分し、親と子の共有名義にする方法もあります。
この場合、親は自分の家を購入したという形になるので贈与には該当しません。
ただし、実際の負担割合とは異なる持分割合にすると贈与税の対象となる恐れがあります。
また、共有名義の家は将来の相続時などでトラブルになりやすい点にも注意しましょう。
まとめ
住宅取得費用を親から援助したもらった場合、基礎控除を超えた援助は贈与税の対象です。
しかし、住宅資金等贈与の非課税枠を適用することで、贈与税を大きく抑えることができます。
非課税枠の適用には満たすべき要件がいくつかあり、さらに、住宅ローン控除に影響するなど注意もあります。 要件の確認や適用シミュレーションなど、しっかり検討したうえで資金援助を検討するとよいでしょう